
決戦前夜
夜になり、私の肌と同じ闇の色が地を覆い、空は泣き出した。
ここでの戦いは膠着している。勝機は見えない。
雨の音。遠雷。負傷兵のうめき声。気が滅入る。
将軍は焦れていた。
老練な戦びとが、我が軍随一の戦巧者が、焦りを募らせていた。
「何故だ、何故陥とせぬ。大軍精兵の我らが、あのような小娘の軍に何故勝てぬ。」
連日の戦闘での疲れを顔に刻んだ将軍は、何度となくそうつぶやく。
陣の外、それほど遠くない距離に敵城が見える。
そしてその城壁の上に、かがり火に照らされ、その「小娘」がいた。
敵の指揮官。金の髪と碧の目を持つ娘。降りしきる雨を避ける様子もなく、ひたとこちらを見つめる娘。
小柄で可愛い。無骨な甲冑ではなくドレスを着せれば、舞踏会の人気者になれるだろう。
だが、そんな見かけとは裏腹に、あの娘は強い。
城攻めが始まってからと言うもの、将軍が武勇で攻めても、私が魔法と計略で撹乱しても、あの娘には通用しなかった。
損害ばかりが日増しに増える。
まるで猫だ。俊敏で、慎重で、抜け目ない。しなやかに攻撃をかわし、隙あらば鋭い爪の一撃を食らわす。
娘は、敵国の本土から派遣されてきたという。
人材に苦労しているはずもない敵が、なぜ年端もいかぬ娘に将軍位を与えたか。
我々はその意味をよく考えなくてはならなかったのだ。
将軍は、明朝の攻撃再開を決定した。
敵の援軍が迫っている。時間はもう残されていない。
援軍の到着まで持ちこたえる事ができれば、あの娘の勝ち。それまでに陥とせれば我々の勝ち。
命を賭したゲームが、また始まる。
天幕の外では雨足が強くなった。
再び城を見る。娘と目が合ったような気がした。
突然の落雷。光の筋が天と地を結び、陣を、城を青白く照らす。
それはまるで、空に浮かぶ巨大な墓標。
そこに刻まれるのは誰の名か。
我々か。
あの娘か。
神の見えざる手は、どちらに差し伸べられているのだろうか。