Deep  Forest


Deep Forest


第3章17節より抜粋

『・・・・・・そのようにして、魔晶石の鉱脈調査に分け入った森の奥で、その者は姿をあらわしたのであった。
朝の祈りが終わって間もなくのころ、不意につむじ風が起こり、われわれ一行の眼をふさがせた。そして一瞬の後には、その者はわれわれの行く手に立ちふさがっていた。
外見は小柄で華奢で、人間の女に似ていた。しかし長い耳をもち、肌が塗られているような黒い色で、目が青と赤の色をしていたので、人間の女ではないということはすぐに分かった。
身につけているものは、私の生まれた場所のものとも、この付近の人々のものとも明らかに違っていた。体には刺青が彫られていたが、それは模様なのか文字なのか分からなかった。もし文字ならば、私の知らない文字だった。まこと私は、このような者をいまだかつて見たことがなかった。

脇を見てみると、道案内の猟師がひどく脅えているふうだった。私は猟師になぜそのようにひどく脅えているのかと手早くたずねてみた。
「われわれは森の国の境を犯しているのだ。あの女は、森の国の王だ。不用意なことをすれば皆殺されてしまうだろう。」
「森の国とはいったいどのようなものなのですか。」
私は猟師にきいてみたが、彼は首を振るばかりで何も答えてはくれなかった。 するとその女がわれわれに話し掛けてきた。
「おまえたちのただ一人も、これより先に行くことはならん。」
これに対して私は言った。
「われわれは貴重な石の鉱脈を調べるためにここに来ているのであって、あなたがたに危害を加えるようなことはしない、どうか調べることを許してほしい。」
するとその女はいった。
「おまえたち人間の王は、われわれの国におまえたちの誰もが勝手に立ち入ることをさせないと約束した。そのかわりわれわれもおまえたちの王と戦をするようなことはしないと約束した。その約束はもう長い間守られている。いまもしおまえたちの誰かがこれより先に進むというのなら、すなわちおまえたちの王とわれわれとの取り決めが破棄されたことになる。」
そこまで言ったとき女の表情が変わったのを私は見た。女は私のことを見ているようだった。 そしてその女は不意にわれわれにもとにやってきた。私はその行動をひどく不用心なものと思った。
その女は、私の前に立った。私の方が背がかなり高かったので、女は私を見あげるような格好になっていた。
しばらく私を見ていた女は、何かを納得したようにうなずいてから笑った。そして私に言った。
「ずいぶん長いことかかって再び出会ったと思ったが、記憶すらなくしてしまっているようだな。これではもはやどうすることもできまい。」
私にはその女の言っていることが理解できなかったが、女はそれだけ言うとわれわれから離れた。
そして「来た方向へと戻り、大きな岩山と小さな岩山の間に挟まれた谷の中腹を掘れ。そこに望むものがある。」
と言うと、木立の間に歩いていき、現れたときと同じように、霧のように森の中に消えてしまった。

われわれ一行は協議のすえ戻ることにした。なぜなら猟師の脅え方がひどく、連れてきた人足たちもそれを見て先に進むことを嫌がっていたからだ。
われわれは野営の後を片づけると来た方へと帰った。そして二日の距離を歩き、いわれるままに谷の中腹を調べてみると、はたして有望な魔晶石の鉱脈が発見された。
あの者がなぜ地中深くにある鉱脈の正確な位置を知っていたか、また、なぜ善意を持ってわれわれにそのことを教えたか、私には分からないし知るすべも無い。
ただ私はこの目で見、この耳で聞いたことを報告するものである。
さて、このようなことがあって後に・・・・・』



「北辺旅行記」、旅行記、西紀前102(?)、
アーリット王立大学図書館古文書保管所蔵。
<翻訳>エリノア・フラウス・ダヴェンポート、309〜311年、未公刊。