地下室の彼女とは別人です


訓練風景


ごちん、というイイ音と同時に、「あうっ」という少し間のぬけた女性の悲鳴が上がった。
「おーい、新米、大丈夫か?」
先行して飛龍を歩かせていた教官から、、いぶかしげといった調子の声が飛ぶ。
「だ、大丈夫・・・デス・・・」
飛龍の鞍の上で、額を押さえている悲鳴の主は、よろよろとした声でそう答えた。側には、木の葉を散らしながら木の枝が揺れている。
いかにも老練な風貌の教官は、やれやれといった表情で、親子ほども歳の離れた若い龍騎兵の側へ自分の飛龍を寄せてきた。そして、彼女のおでこを看ながら諭すように言う。
「飛龍を道筋どおりに歩かせるのも大事だがな、下ばかりでなくちゃんと周りも見ないとならんぞ。空と違って見通しがきかないのだから。・・・何ともないようだな。」
「は、はい、気をつけます。」
まだひりひりしているおでこをさすりながら彼女は答えた。地上訓練初日から、いきなり笑い話のネタを提供してしまった。バツが悪いったらない。
「にしても」
訓練教官は笑った。
「空ではあれ程自在に飛龍を操れるし、状況判断も的確なおまえも、地上に降りちゃあ形無しだな。もっとも、ここで完璧にこなされちゃ、俺の立場がないがな。」
最後の方は冗談めかした口調。
「よろしくご教授お願いします。私、地上で活動するのって苦手で・・・」
照れかくしか、彼女ははにかんだような表情を浮かべ、鼻の頭をぽりぽりと掻きながらそう言う。
「どの辺が苦手なんだ?」
「障害物が多くてつらいです。」
「飛んでるときはうまく回避できるじゃないか。」
「地上と空の、飛龍を操る感覚の違いが、まだうまくつかめなくて・・・。あと、今もう一つ苦手ができました。」
「そりゃ何だい?」
「木の枝です。痛くてキライです。」
彼女はそういって、自分にぶつかった枝をこつん、と叩く。そこで二人してひとしきり笑った。

やがて教官が、まだ口の端に笑いが残った口調で、
「まあ、あせらずに行こう。お前は飲み込みも早いし筋もいい。すぐに一人前になるさ。痛い思いもしなくて済むようになる。それじゃあ、今度はそっちが先行で進むぞ。」
と、訓練の再開を促す。
「はいっ!」
元気に答えて、再び飛龍を歩かせる彼女。慎重に飛龍を操る彼女の後ろ姿を見つつ、決してめげないのはこの娘の長所の一つだな、と教官は思った。
と、不意に彼女が振り返り、
「教官、飛龍の扱いで一つお聞きしたいことが・・・」
「おい、前に・・・」
「え・・・きゃー!!」
黄色い悲鳴とばさばさという音とともに、さっきよりも派手に木の葉が散った。
「嫌いって言ったから仕返しされたんだな。」
「そ、そんな〜(T_T)」
木の葉まみれの彼女を見て、思わず苦笑いの教官。
訓練はまだまだ続きそうである。